
サルコペニアと骨盤底筋の機能障害の相関関係とは?2024年論文が示す相互の悪循環
筋力や筋肉量、身体機能が低下するサルコペニアと、尿漏れなどの症状を引き起こす骨盤底筋の機能障害(骨盤底機能障害:PFD)。 従来は一方向の関係とされてきましたが、2024年のナラティブレビューでは、両者が互いに影響し合う可能性が示されています。 本記事ではその内容を、論文の知見をもとに解説します。

著者 曻 真子
代表取締役
株式会社EVAtech
- これまでは「サルコペニア(加齢に伴う全身の筋肉量低下)が骨盤底筋を弱くし、尿漏れや骨盤臓器脱を招く」という一方向の関係が、一般的な理解とされてきました。
- 2024年に発表されたナラティブレビュー(総説論文)では、骨盤底機能障害(PFD)による活動回避が、逆にサルコペニアを進行させる可能性があるという「逆方向」の影響が指摘されています。
- 運動不足、栄養バランスの乱れ、メタボリックシンドローム、閉経後のホルモン変化という共通のリスク因子が、両者の悪循環を後押ししている可能性があります。
これまでの常識:サルコペニアから骨盤底機能障害(PFD)への一方向の流れ

サルコペニア(加齢に伴い、筋肉量・筋力・身体機能が低下していく状態)が進行すると、骨盤底筋群を含む筋機能が低下し、骨盤底筋の機能障害(骨盤底機能障害:PFD)に関係する可能性があります。
従来は、サルコペニアとPFDの関係を、主に次のような流れで捉える考え方がありました。
- サルコペニアの進行
- 全身の筋力低下
- 骨盤底筋群の支持力低下
- 尿失禁や骨盤臓器脱など
骨格筋量は40代から70代にかけてピーク時の約25%が失われ、70代以降は減少がさらに進むとされています。
こうした加齢に伴う筋機能の変化は、骨盤底筋群にも生じる可能性があります。
骨盤底は、骨盤の下側に位置する筋肉や結合組織などからなる構造です。
膀胱・子宮・直腸などを支えるほか、排尿や排便のコントロールにも関わっています。
骨盤底筋群の筋肉量や筋機能が低下すると、こうした支持機能にも影響し、尿失禁や骨盤臓器脱などにつながることも。
PFDのある60歳以上の女性217人を対象とした横断研究では、骨盤臓器脱の重症度とサルコペニアとの関連が報告されています。
このように、これまでの研究では、サルコペニアとPFDの関連について、筋力や筋機能の低下を介した影響が主に検討されてきました。
2024年ナラティブレビューが示した新視点:「逆方向」の影響

2024年のナラティブレビューでは、従来考えられていた「サルコペニア→PFD」とは逆に、PFDの症状による活動回避が身体活動量の低下を介して、サルコペニアに関与する可能性も示されています。
PFDが先に生じた場合には、次のような経路が考えられます。
- PFDの発症
- 尿漏れ、骨盤臓器脱、骨盤痛などの症状
- 外出・運動を避ける
- 身体活動量の低下
- 筋肉量減少(サルコペニア進行)
症状を伴う骨盤底機能障害のある女性を対象とした調査では、46%が特定の身体活動への参加を中止したとする結果が報告されています。
身体活動量の低下は、筋肉量や筋力の維持を妨げ、サルコペニアの進行に関係する可能性があるのです。
また、尿失禁の新規発症と、歩行や椅子からの立ち上がりなどの身体機能低下との関連を調べた研究では、新規に尿失禁が生じた人で身体機能の低下がみられたことが報告されています。
ただし、これらはPFDが直接サルコペニアを引き起こすことを証明したものではありません。
PFDによる身体活動の低下がサルコペニアに関係し、さらに筋力や身体機能の低下がPFDに影響する可能性があるという、双方向の関係がこのレビューで示された新しい視点です。
互いに悪化させ合う「悪循環(循環モデル)」の全体像

2024年のナラティブレビューでは、サルコペニアとPFDを一方向ではなく、循環的な関係として捉えるモデルが示されています。
具体的には、次の2つの経路が考えられます。
- パターン01:サルコペニアからPFD発症への流れ
- サルコペニアによる筋力・身体機能の低下
- 骨盤底を含む筋機能や支持機能への影響
- PFDの発症・悪化
- パターン02:PFD発症からサルコペニアへの流れ
- PFDの発症による尿漏れや骨盤痛などの症状
- 外出や運動の回避
- 身体活動量の低下による廃用性筋萎縮
- サルコペニアの進行
同レビューは、この2つの経路が独立したものではなく、一方の悪化がもう一方の悪化に影響する循環的な関係となる可能性を指摘しています。
この関係を踏まえ、サルコペニアとPFDを別々の問題として捉えるのではなく、両方を視野に入れてスクリーニングや管理を行う統合的なアプローチの重要性を強調しています。
両疾患を同時に進行させる「4つの共通リスク因子」

サルコペニアとPFDには、身体活動、栄養、代謝、閉経後のホルモン変化など、共通して関係する要因があります。
主な要因として、2024年のレビューでは次の4つが挙げられています。
- 運動不足・日常の活動量低下:全身の筋力や骨盤底筋群の機能低下につながる可能性
- たんぱく質やビタミンDなどの栄養面の問題:筋肉量や筋機能の低下に関係
- メタボリックシンドロームや慢性炎症:筋肉の分解や骨盤底筋・結合組織の機能低下に関係する可能性
- 閉経後のエストロゲン低下:筋肉や骨盤底組織の機能に影響する可能性
これらの要因は、それぞれ異なる経路からサルコペニアとPFDに関係します。
つまり、両者の関係には筋力低下だけでなく、身体活動や栄養、代謝、ホルモン環境といった複数の要素が関わっていると考えられるのです。
とくに更年期以降は女性ホルモンの低下に加えて、筋肉量や骨盤底筋の機能の変化なども重なりやすい時期でもあります。
サルコペニアやPFDを考えるときは、尿漏れなどの骨盤底の症状だけ、あるいは筋力低下だけに目を向けるのではなく、全身の健康と骨盤底機能がつながっている可能性にも目を向けることが大切です。
骨盤底ケアと全身の筋力維持をセットで取り組む

- サルコペニアと骨盤底機能障害(PFD)は、一方向ではなく、互いに影響し合う可能性がある「循環モデル」の関係にあります。
- 運動不足、栄養面の問題、メタボリックシンドローム、閉経後のホルモン変化などが、両者に共通して関係する可能性があります。
- 骨盤底筋トレーニングだけでなく、全身の筋力や身体活動、栄養面も含めて捉える視点が重要です。
サルコペニアと骨盤底機能障害(PFD)は、それぞれ独立した問題として語られがちですが、2024年のナラティブレビューは、両者が互いに影響し合いながら進行する可能性があることを示しています。
全身の筋力低下がPFDに関係する一方、PFDによる活動量の低下がさらなる筋力低下につながるという循環的な関係です。
背景には、運動不足や栄養バランスの乱れ、メタボリックシンドローム、閉経後のホルモン変化といった共通の要因が関わっている可能性も指摘されています。
骨盤底筋トレーニングと全身の筋力維持、適度な運動、栄養管理などを組み合わせて取り組むことが大切です。
※本記事は、あくまで学術的な学びのための情報提供であり、特定の製品や医療行為を推奨するものではありません。
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